いい加減眠ろうと思った瞬間に閃いて、それを忘れない内に書き記す。何度か繰り返していたら目が冴えてしまった。少し体を動かしながら何も考えない時間を確保しなければ。
屋外に出ると意外と肌寒い。もうこんな季節か。
真夜中だというのに音を立てて稼働している工場には、あまり立ち入らせてもらえない。何を一生懸命作っているのやら。
「君は君の仕事に集中してくれ」なんて体のいい厄介払いで、先行きは不安しかない。結局どうしようもないことばかり考えてしまうし、今ここにいるのは私一人でもない。

「いるんでしょスタンリー。タバコくれない?」
「へえ、いつから気付いてた?やんじゃん」
「いつからも何も私、復活してから一日たりとも一人になったことがないんだけど」

腕は信用されてるが、ここの一員として信頼はされてない。ここでの立ち位置はずっとそんな感じだ。
スタンリーは私の横に立つと、まず自分のタバコに火をつけて煙を吐き出した。

「ほらよ」

彼から新しいタバコを受け取ったは良いが、肝心の火がない。

「ごめんマッチも貰って良いかな」
「あぁ……さっきので切らしちまった」
「そんなわけないでしょ」

さっきずいぶんと在庫があるように見えましたけど。余計な仕事を増やすなという警告なのか地味な嫌がらせなのか。
仕方なく火が付かないままのタバコを噛んでいると、スタンリーは徐に私の名を呼んだ。

「なに」
「こっち見なよ」

促されるまま顔を動かすと、彼の咥えていたタバコと私のタバコの先が危うく当たるところだった。

「吸って」

ああ、そういうことか。回りくどい。
火が付いたスタンリーのタバコの先に私のを合わせて息を吸う。

「どうも」

所詮、監視する人間と監視される人間。その後は特にお喋りに興じるでもなく、ただ空へと昇っていく煙を眺めていた。

「……次はコレ抜きでする?」

スタンリーの長い指に挟まれたタバコが、私の目の前でゆらゆらと揺れている。一方的に振り回されるのは面白くないから「二人で禁煙できたらね」と返しておいた。



2020.9.21 『夜はけむり』


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